こんにちは。かつて紀元前に中国を統一した紀元前の王朝・秦の旗がたなびいています。ちょっと戦場っぽさあります。

映画も公開され、ますます人気になっている『キングダム』、皆さんも当然読んでいますよね?
僕は仲の良い友人に連載開始直後からずっとオススメされてい他にもかかわらず、「人が死にすぎる」「人の命が軽すぎる」という理由で(あとは「王騎のキャラが意味不明」なんてのも)読まず嫌いをしていました。
それが、今年のはじめに雪が降り積もる地方のラーメン屋で、何気なく手に取ったところどハマり。今では中国に行ったついでに西安まで足を伸ばし、キングダム史跡巡りをするほどです。読まず嫌いって良くないですね。
さて、映画公開に合わせて出演者らの露出が増えるなか、作者である原泰久さんのインタビューも色々な雑誌に掲載されています。

私が読んだものでは『日経トレンディ』2019年4月号と『週間ヤングジャンプ』2019年19号のインタビューがすごく興味深い内容でした。
『日経トレンディ』の方は「『キングダム』ロングセラーヒットの軌跡」として、ビジネスが学べる指南書として読まれているという話題を皮切りに、原さんの会社員経験、悩んでいた時にもらった以前にアシスタントをしていた井上雄彦先生のアドバイス、ヒット前後の変化や 作品を描くときに考えていることなどを語っています。
一方『ヤングジャンプ』は、20000字の大ボリュームインタビューを掲載。原さんの半生を振り返り、親しんできたマンガや映画についてや、マンガ家としてデビューするまでの道のりについて掘り下げています。
今回、『キングダム』 が映画化するので映画体験の話が中心になっていると思いきや、原さん自身はマンガよりも映画で育ってきたという、意外なバックボーンも初めて知ることができました。
『キングダム』がビジネス書的な読み方をされるということですが、私自身も読んでいて思うことの一つは、キャラクターの立場の違いがとても丁寧に描かれているので、チーム全体を描くときの厚みにとても説得力があるな、ということ。
戦国時代の歴史物のような物語は、どうしても史実に名前が残るスーパースター中心の話になりそうなものですが、『キングダム』は一人一人の行動、役割がしっかりと意識されていると思っていました。

それが会社の力学に似ているような気がするんですよね。令和日本のサラリーマンにせよ、春秋戦国時代の秦の兵士にしろ、組織全体のミッションやゴールからすると各人の仕事が向き合っていることというのは、当人にとってはすごく瑣末なことのように感じられる時があります。
大上段でトップの言葉として語られることと、自分の役割が結びつかない、みたいな(秦の時代の戦いはもう少しシンプルかもしれないけど)。ただ個人レベルでは戦局全体を動かすような仕事には見えなくても、より広い視点から俯瞰的に捉えれば、そういう小さな積み重ねがチーム全体の結果を左右するのは良くあることです。

逆に言うと、リーダーからすると全体に占める影響が小さな仕事であっても、実際に携わる各プレイヤーの主観的には、だからと言って自分の責任や取り組みが軽いものになることとイコールでは決してないという。『キングダム』の軍というのは、そういう組織の構造化されない影響関係やプレイヤー心理をすごく的確に描いていると常々思ってきたわけです。
あと、役職や肩書きがあるにはあるけど、意外とフレキシブルに捉えられているところもリアルだなと。偉い上司でもフォーマルじゃない場だと実は打ち解けていたり、立場上は距離を保っているけど気持ち的には近かったり。例え軍内でも(やりすぎると問題ですが)上司だからって職制を超えた人間関係が全くないということはないでしょうからね。
この辺りは、作者の原さんにサラリーマン経験があるからこそなのかな、と。原さん自身も「会社員経験がなければ、キングダムは生まれていなかった」と語っていますが、そこに至るまでの進路・キャリアもすごく興味深いものがあります。

『ヤングジャンプ』のインタビューに詳しいですが、将来はものづくり、特に映像制作の仕事に就きたいと考えて芸術系の大学に進み、在学中も映像制作に没頭していたという原さん。しかし、希望に反して映像とは遠い工学系の研究室に入ることになり、映画を撮るはずがC言語というコンピューター言語を使った画像解析をすることになったんだとか。
ゼミの選択によって映像系への就職が遠ざかったものの、大学中にヤングマガジンの「ちばてつや賞」で期待賞を取ったこともあり、将来的に漫画家として生きていくことも視野に入れて、卒業後は大学院に進学。国際会議でスピーチをするなど専門領域での実績を残しながら、漫画を執筆していたそうですが、連載までは進めず就職活動をしてシステムエンジニアとして働くことになったといいます。
当時を振り返って、SEとして就職して「早く抜け出して、漫画デビューしよう」と不届きなことを考えていたと明かしていますが、働き始めて職場で見たものは、想像していたものとは違ったそう。
いざ働いてみると、予想外に仕事が面白い。学生の目から見ると、会社では皆同じようなことをしているように見えていたのですが、実際の現場は、チームごとにそれぞれ役割があり、有機的に動いている『キングダム』でいえば「伍」ですね。それがいくつもあり、そのなかで戦ったり、リーダーたちが上長とけんかしたり、一人ひとりがアグレッシブに動いている。ドラマチックだと思いました。
『日経トレンディ』2019年4月号
先輩に叱られたり、かわいがられたりしながら成長する信は「サラリーマン時代の経験そのもの」だといい「あの経験がなければ飛信隊の泥臭い部分は描けず、形式上かっこいい部分だけで終わったと思います」(『日経トレンディ』p.42)ということです。
『日経トレンディ』の中で個人的に面白いなと思ったことがもう一つあって、それは原さんのサラリーマンの友達に人気があるキャラクターは「基本に忠実で生真面目な壁や渕さん」だという話。そうなのか…桓騎軍のオギコとか、亜光軍の亜花綿だって感情移入できるじゃないか。
作品制作の裏話としては『ヤングジャンプ』が詳しく、『キングダム』で描いた根底には、映画を貪るように見ていた少年時代に培われたから叩き込まれた「シナリオ構成のエッセンス」と原さん。
複雑で入り組んだ史記を破綻なくストーリーに落とし込む方法としては、「本紀」と「世家」、「列伝」をエクセルを使って自分の年表にリライトし、その年表からエピソードの取捨選択を繰り返しているそうです。原さんにとってシナリオの構築は数学的な作業だといい「ネームの際に考えるのは、『何を見せるために、何を引き算するのか』ということ。本当に“設計”です」と語っていました。
すごく面白いですね。『キングダム』ファンなら必見の内容なので、まだ目を通してない人はぜひ。ヤンジャンの方のインタビューは『キングダム』54巻にも掲載されていたかと思います。
「雑誌」が好きなら読んでみて
dancyuの食パン号は編集的にも学ぶとこが多いヒットな一冊
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