仕事やそれ以外の活動で、日頃から新しい企画を考える必要がある人は多いのではないだろうか。
企画やアイデアの出し方は人によって様々で、企画の数だけ生み出し方があると言えるかもしれない。
バス、ベッド、バス(風呂)のいわゆる3Bでひらめきを待つ人がいれば、ブレストや組み合わせ思考法でひねり出したヒントからアイデアを掘り下げていく人もいるだろう。
僕の場合は、あるテーマがあったら「この内容はどうかな?」「こういう構成はどうか?」とひたすら思い付いたことを頭の中でビルド&スクラップ。
アウトプットの場にふさわしいか、今回のねらいを満たしているか、新しい見せ方ができるか、似たような企画がないか、とかを確かめつつ、実際にどう進めるか、何をどう書くか、そして本当にそれがやりたいか…とか行ったり来たりしながら自分の中でゴーサインが出ることになっている。
そうやって毎週毎週企画案を考えているわけだが、一歩目がインスピレーションに頼っているので、できあがる企画案に当たりはずれがある。あと、このやり方に慣れてるとはいえ、再現性があるかと言われればそれも自信がない。どうしても掘り下げ方、アイデアの広げ方が似てきて、チームメンバーや読者に気付かれなくても「ああ、これは前にやったあれの焼き回しだな」ってことは結構ある。
アイデアを仕事にしていれば避けて通れない悩みだけど、そんなときに発想の転換のヒントになるのが今回紹介する本だ。
『東大教養学部「考える力」の教室』は、東大教養学部の教養教育高度化機構で特任教授を務める、博報堂のブランド・イノベーションデザイン局長の宮澤正憲氏が執筆。
よく東大を書名に冠した本はだいたい微妙なんてことを聞くけど、この本は宮澤氏が実際に東大教養学部で行い、とてもを人気が出た学生が集中したという授業を書籍化した一冊だ。東大教養学部教養教育高度化機構って舌を噛みそう。
宮澤氏は、アイデアを思いつくのは特別な才能ではないとしつつ、次のように綴っている。
コツをつかむことで、自分でも思いもよらなかった「面白いアイデア」を思いつき、世界を変える発想ができるかもしれないからです。
そのために同氏が用いるのが、「リボン思考」と呼ばれる基本フレームだ。
リボン思考とは、事実について考える(インプット)→解釈について考える(コンセプト)→解決策について考える(アウトプット)という3つのプロセスからなるフレームで、ユニークなのが「質問からスタートする」という点だ。
インプット=情報収集の段階で「何を集めるか、どう集めるか」と頭で汗をかき、考え方・進め方そのものを考え、楽しいアイデアを盛り込んでいくことが魅力的なアウトプットにつながっていく。
例えば「新しいビールの可能性」を表現するクリエイティブを考えると想定してみよう。これは実際にこの間、僕が頭を悩ませていたテーマだ。
普通、最初によくやるのはビールの最新動向をチェックしたり、ニューオープンの店やトレンドを調べてみたり、SNSでユーザーの反応を確かめてみたり。現代に生きる我々は、インターネットを利用すれば、求めているものが見つかると思いがちだ。ただ、それでは同じテーマを同じように進めている人と似通ったインプットになってしまう。
僕らが何かを調べるとき、そこには次の3つの対象が存在するという。それは
- 既知の知
- 既知の未知
- 未知の未知
知っていることか、知らないことか、知らないことを知らないことか。
確かにインターネットで調べれば大抵の情報は手に入るが、それは2番目の「既知の知」つまり知らないことを知っていることまでだ。サジェストや検索結果で思いもよらない気づきがある場合もあるが、基本的にはネットでは知らないこと知らないことについて答えを得ることをできない。
だが宮澤氏は、この一番難しい「未知の未知」こそが宝の山の可能性が高いとする。
そこで、考え方を考えるために、質問を立てることからインプットを始めるのだ。さっきのビールの例では、まず
- 「新しいビール」の新しいとは何か
- そもそもビールはいつ生まれたのか
- 一年にどのくらいのビールが新発売されるのか
- 消費者は新しいビールに魅力を感じているのか
- 新しくないけど最高のビールはあるのか
といった質問を立ててみた。そして、それぞれの質問には適した調べ方があるので、それに沿って情報を集める。語義的な切り口では国語辞典を比較する必要があるし、歴史であれば専門家に聞く手もある。消費者意識の場合はユーザーにアンケートを行うのも効果的だ。
こうして調査を調べていくと、さまざまな発見がある。同書によると、優れた発見には「今まで気づかなかった新価値」と「深層にある本質価値」の2つの方向性があるという。
きっと、ここまで進めると良質なインプットが手に入っていることと思う。この後を早足で説明すると、次にそのインプットを「ひと言でいうとなんなのか」というコンセプトでまとめ、アウトプットとして形にしたものが、意外性と納得性を兼ね備えたよい企画になるのだ。
これが『東大教養学部「考える力」の教室』で説明されるリボン思考のあらまし。このリボン思考の解説と実例のほかにも、同書にはいくつもの思考法やアイデア出しのヒントが多くちりばめられている。
- とにかく数を出す
- アイデアは全員のもの
- 会議ではお菓子の持ち込みOK
など、今日からでもマネしたい考え方も少なくない。企画やアイデアを仕事にしていて、悩むことが多い人はぜひ読んでみてほしい一冊だ。
ちなみに、さっきの僕のビールの話では「自分たちでビール列車を走らせる」と「最高のビール意識調査」という2本の企画が形になった。「新しいビール」ってなんだろうと考えているだけでは、たどり着きにくいアウトプットになったのがなかなか面白い。