半沢直樹シリーズ最新刊『アルルカンと道化師』で半沢の栗焼酎好きが判明!

新シリーズのドラマ「半沢直樹」盛り上がっているようですね。

原作「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」をベースに、電脳雑伎集団との戦いや帝国航空の経営再建で派手にやっている今作。

TBS

いい加減、銀行内で権謀術数にまみれすぎな足の引っ張り合いばっかしてたら、そんな組織アカンやろと思われてしまうと我に返ったのかどうかわかりませんが、帝国航空編の大ボスは与党の幹事長の模様。一介の銀行員がどうこうできる相手なのかって気もしますが、そこはオレオレ半沢直樹さん。きっと今回も華麗な倍返しを決めてくれるんでしょう。

そしてそうなると、毎週恒例ですが半沢直樹を見て信念に目覚めた日本中のサラリーマンが、月曜日にいつもより強めに上司とやり合うのかもしれません。とはいえ、ドラマと違って普通の会社員が関わる仕事の多くは、魂を込めて体当たりで突破するような性質のものではないので、上司としてもいい迷惑ですね。

さて、こんな風に世の中が半沢直樹で盛り上がっていますが、計ったようなタイミングで9月17日には「半沢直樹」シリーズの6年ぶり最新作『アルルカンと道化師』が発売されました。

最新作の舞台となるのは東京中央銀行の大阪西支店。2013年に放送されたドラマの前半の原作にもなった、シリーズ1作目の『半沢直樹1 オレたちバブル入行組』よりも前の時代だと思われます。

話の流れはこうです(あらすじより)。

東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとにとある案件が持ち込まれる。大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのだ。大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは――。

講談社BOOK倶楽部

ここまで続いてきたシリーズの前日譚のような位置づけで、美術系出版社・仙波工藝社の買収をめぐるストーリー。その後の半沢の人事を知っている我々読者からすると、クビになるかもしれないスリリングさや、対立する相手との手に汗握る争いがもたらす興奮こそありませんが、ミステリー仕立の緻密な構成で、作中の時間の流れも壮大。なかなかに読み応えがある1冊になっているんです。

作者の池井戸潤さんと言えば、日曜9時枠でドラマ化された作品群に代表される(主に銀行や中小企業を舞台とした)企業エンターテインメント作品を得意とするイメージを持っている人が多いと思いますが、本人は子ども時代からバリバリのミステリー読み。

江戸川乱歩賞受賞作を読みまくり、本人の夢も同賞の受賞だったということですが、実際に作家デビューのきっかけになったのも『果つる底なき』での第44回江戸川乱歩賞受賞です。

『アルルカンと道化師』では、IT大手から買収提案を受ける仙波工藝社の融資に絡む東京中央銀行内のゴタゴタや半沢の戦いを軸に、コンテンポラリーアートの巨匠・仁科譲が描くアルルカンとピエロが作品をドライブさせています。同時に、(これまでの半沢シリーズと比べても)登場する人物たちの輪郭がはっきりと、内面的な葛藤や感情も丁寧に描かれているため、半沢の熱や腐りかけた組織内の意趣返しだけではない作品の広がりも感じました。

ところで、ドラマにしろ原作にしろ、半沢直樹シリーズを見たり読んだりして思うことに「こいつら、いっつも仕事の話しながら酒飲んでるのに、酒や食事についての感想がひとこともないのはなぜなんだ」という疑問があります。

もちろん明日の自分どうなるかわからない行内政治に巻き込まれてる中、酒や料理を楽しめるはずがないという考えもあるでしょう。そんな緊張感があるにしてはよく飲みに行くな、とも思いますけど。自分の中の暫定的な答えとしては、半沢たちはあまり酒そのものに興味がない、というものだったんですけど、この『アルルカンと道化師』ではお酒についても興味深い描写が見られます。

一つは作品の中盤、物語を大きく動かす人物の実家が兵庫県にある酒蔵という設定、もう一つは半沢の好きな酒がはっきりと明示的に書かれていることです。

「ふくわらい」のカウンターでそういいつつ、渡真利は先付けの桜海老のお浸しに箸を付けている。
「気をつけろといわれても、気をつけようがない。“落石注意”の看板みたいなこというなよ」
半沢は静かに焼酎を呑んでいた。銘柄はいつもの「ダバダ火振」だ。

池井戸潤『アルルカンと道化師』p.317、講談社

半沢、お前いつもダバダ火振なんか飲んでたのかよ!

無手無冠

高知県の無手無冠が造る栗焼酎・ダバダ火振。特徴的なネーミングは人の集まる場所を意味する地元の言葉「駄場(ダバ)」と、夏の夜に松明を用いる伝統的な鮎漁法「火振り漁」から来てるそうです。

もともとは日本酒造りをしていた蔵が、昭和60年頃から地元の栗を使った製造を始め、次第に全国区の人気を集めるようになった焼酎です。

ちなみに蔵の地元・高知県高岡郡の四万十町には、焼酎を預けることができる「四万十川焼酎銀行」という場所があります。ここでまさかの半沢と銀行繋がりか!

思わぬ偶然もあったところですが、最後に。『アルルカン』の中でお酒の銘柄が出てくるのは一度だけ。それも、物語が終盤を迎える辺りですが、半沢の頭の中ではおそらく倍返しの成功を確信し、気持ち的にはだいぶ余裕があることと思います。

ここから推測するに、やたらと良いタイミングで出張がある渡真利と飲むとき、大抵は半沢がピンチの渦中にありますが、この時は焼酎の銘柄や味を意識する余裕がないのではないかってこと。で、余裕が出てくると意識がそちらにも向いているのではないのでしょうか。

とはいえ「いつもの銘柄」というくらいだから、余裕があってもなくても飲むお酒はだいたい同じになっている。つまりは、ダバダ火振にはかなりのこだわりがあることが窺えます。

つまり、お酒に興味がないわけではなく、

  • 普段は倍返しで頭がいっぱいで酒のことを考える余裕がない
  • 飲む銘柄がいつも同じなのでリアクションが薄い

と、考えるのが自然なのではないでしょうか。同時に、一つの銘柄にそこまでの思い入れを持つくらいなので他の銘柄へのリスペクトや関心もあるに違いなく、いつか別のお酒へのリアクションを見せることにも期待したいところです。