乃木坂46高山一実の初小説『トラペジウム』を読んだら青春を感じた

乃木坂46の高山一実による小説『トラペジウム』が、11月28日に発売されました。雑誌「ダ・ヴィンチ」で2016年5月号から2年以上にわたって連載されたもので、乃木坂から小説家デビューは初ということでメディアでも取り上げられていますね。

これが初小説となった高山は次のようにコメントしています。

長編執筆の決意をしてから2年半、バッグには常に原稿が入っていました。トラペジウムのことを考えなかった日は一度もありません。

どんなメッセージを含ませたいか、その為にはどうやってストーリーを運んでいけば良いか、アイドルはどうあるべきか、主にこの3つを繰り返し自分に問いかけ、なんとか一冊の本に纏めることができました。(中略)

夢を与える職業と言われているアイドル。「小説」は、その夢の与え方がずっとわからなかった私が、やっと見つけた可能性です。どうか読んでくださった方の未来を照らす作品となりますように。

乃木坂46から初の小説家デビュー! 高山一実『トラペジウム』11月28日(水)発売決定!|株式会社KADOKAWAのプレスリリース

多忙なアイドル生活中で、2年半にわたって小説を書いていたとは。

一人でもバラエティ番組に出演したり司会を担当したりするなど、どちらかというと女性の目に留まりやすい露出戦略が多い乃木坂にあって、キャラクター的にも出演番組・活動のジャンル的にも親しみやすい高山ですが、実はこのニュースを見るまで小説を連載しているとは知りませんでした。

サクッと公式ブログを覗いてみても、日々の身辺雑記のような内容が中心で、取り立てて文章がうまいなと思わせるところもすぐには見つからず。ですが、ザーッと過去のエントリを遡ってみると、記事のタイトルのつけ方には雰囲気を感じさせますね。

高山一実は千葉県南房総市出身で、同市の観光大使も務めています。毎年秋に、南房総の民宿に泊まって陰ながら同市をアピールしている僕としても、これはぜひとも読んで応援しないといけません。

ということで、本屋に寄って見つけたので買っみたのと、国会図書館に行く用事があったので雑誌連載分も読んでみました。

『トラペジウム』は、アイドルを目指す、ある女の子の10年間について綴られた青春小説です。

主人公の東ゆうは、アイドルになることを夢見る高校1年生。憧れるだけではなく、どうすれば夢が実現できるかを常日頃から計算する用意周到さを持ち、一度これと決めたら一直線に突っ走る行動力を持つJKです。

ちなみにトラペジウムとは、三省堂の『大辞林』によると「オリオン星座のオリオン大星雲の中にある四重星」のこと。この小説でも、東ゆうが、自分のほかに3人の美少女を仲間に加えようと奔走するところから物語が進んでいきます。

なぜ3人の美少女を集める必要があるかというと、片田舎の女の子たちが注目を集めるためには、ただカワイイだけでは不十分だという東ゆうなりの計算によるものだということが段々と分かってきます。そこでたどり着いた結論が「東西南北の美少女を集めよう」という打算。導かれるように集まった4人のJKは、偶然に気があうメンバーが揃ったのではなく、実は東ゆうがあの手この手を使って自分が必要だと思う女の子たちを集めていたのでした。

この作品で東ゆうが住む世界では、TwitterやLINEと思しきアプリが使われる一方で、掲示板「5ちゃんねる」はまだ「2ちゃんねる」として存在し、彼女が使う検索エンジンはYahoo、そういう時代の物語です。

この東ゆうという人物、高校ではなるべく目立たないよう生活し(これについてはアイドルになった後のことを計算しているとも言えます)、アイドルの夢を他人に話すのに恥ずかしさを感じるような面を持つ一方で、アイドルになるために人知れず周りが聞いたらびっくりするような計画を立てたり、ぱっと見イタい謎の行動に突っ走ったりします。

冷静で計算高くて、アイドルになるためなら先の先まで考えて行動する一方で、自分勝手な考えで突っ走って周りを置いてけぼりにしてしまうことがある、というのが主人公の東ゆう。青春小説のセオリーで言えば、でも実は周りはそれに(薄々)気づいていて、最終的には夢以上に大切なものも見つかるというのが落とし所ですが(実際、それに近い描写もある)、それにとどまらないのがこの『トラペジウム』だと読むこともできます。

アイドルが成功した後のインタビューで、デビューのきっかけを問われて「何気なく応募したオーディションで受かって…」というのはテンプレですが、東ゆうは自分はそうした星の元に生まれていないことを痛いほど知っています。東西南北揃ったら何かが打破できるというのは、他に何も打つ手がなくなった彼女の最後の一手と言えるかもしれません。本文では描かれていませんが、カバーイラストを見る限り彼女自身もとてもカワイイ、でもそれだけではアイドルには決定的に足りない…それが東ゆうの自己評価なんでしょう。

ちなみに、ダヴィンチ連載版では、第1回に明示的に東ゆうが美少女であるという描写があります。他にも、知らない高校の前に行って突然大声出すなど、単行本版に増して思い込みが激しいJKになっています。単行本では、そうしたところは大幅に改稿されていて全体として洗練されている、これは筆者の高山自身の成長と見ることができるとともに、登場人物たちがギラギラして収拾がつかない別の世界線の物語として読んでも面白いです。

話が変わりましたが、そうした東ゆう、美少女で、誰にも言わないけど誰よりも強くアイドルになりたいJKが何か行動を起こすとなると、主人公がエネルギッシュに、いろいろな出来事が絡み合いストーリーが力強く進みそうですが、あくまで『トラペジウム』の展開は淡々としたもの。

東ゆうはいつも冷めている(ように見えなくもないし)、周りの登場人物も物わかりがとても良い(あと東ゆうは何かとよく寝る)。話の展開はテンポがよく、物語論的に言ってもいろいろなことが上手くいきすぎていて、ゴールが逆算できてしまう面もある。もうちょっと障害だってあるだろうし、そう簡単にいくかな?と思うところがなくはないんですけど、そのコミュニケーションには実はすごい生き生きした人間関係があるなとも思うわけです。

なんとなくの気分とノリと空気で全てが決まりそうなJKですが、実は行間には見えないコミュニケーションが数え切れないほど隠されていて、その上澄みをサラッと描き切ったのがこの小説だとも読めますよね。つまらないと言うのは簡単ですが、この空気感はなかなか出せるものではないのでは、と。

なので、青春って他人から見てそんなわかりやすいものじゃないでしょう、周りが見たらただの日常でも、当人にとっては自分が生きるか死ぬかの戦いかもしれない、そんな青春を描いているのかなと思うことにします。いろいろと面白い読み方ができそうな『トラペジウム』。高山は今後も小説を書くのでしょうか。次回作があるなら楽しみです。

あと、感心したことがあります。さすがというか、美少女の描写がとても上手い。周りに美少女がたくさんいるからなんでしょうか。そういう意味では、東ゆうは本人に似ているんでしょうか。

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