西成ドヤ街のヤバい日常を見たまんま描いた國友公司『西成』が面白すぎ

「トイレに使用済みの注射器を捨てないでください」

なんだその注意書。使用前だったらいいのか。というか使用済みの注射器ってナニ…?

これは大阪・動物園前駅の近くにあるコンビニのトイレで見つけた貼り紙。そんなに大昔の話じゃなく、10年くらい前の話だったかな。若い人にとっては大昔だと思うけど。

西成と聞いたらどんなものをイメージするだろう。ネタみたい担ってるけど、盗品とおぼしき片足だけの靴を売るおっちゃんとか、最近は外国人もよく来るという1000円で泊まれる安宿…。また、そんな具体的なイメージはなくても、なんかヤバそうな場所と思ってる人もいるのでは。

ただ、その説明できないヤバそうな感じは、実際その通りというか、犯罪者であろうと指名手配犯であろうと西成に潜り込んで逃げおおせてしまうこともあるらしい。

とはいえ、個人的にはそういう西成ヤバい的な話は尾ひれがついたオーバーなものだろうとずっと思っていた。あの辺に泊まったこともあれば、銭湯にも立ち飲み屋にも行ったことがある。

だけど2019年、平成が間もなく終わろうというこのタイミングになって知った。 西成ってマジで噂以上に西成なんだなって。

考えを変えるきっかけになったのは、國友公司さんが執筆した『西成』というルポタージュ。大学に7年通って、水商売のバイトをしたり、不健康な海外旅行を重ねたりするうちに、裏モノ系ライターになったという人物が書き上げた渾身の一冊だ。

本の冒頭、西成に向かう國友さんは、品川駅のキヨスクでおにぎりを買う。お店のスタッフに袋はいらないと伝えたのにビニール袋で渡され、こう綴る。

私の言葉なんて誰にも届かない。今の私など死んだって社会に何の影響もない…

死ぬなんてそんな大げさな、と思ってしまいそうだが、本書を読み進めると、確かに西成を甘く見ていたらマジですぐに死にかねないことを思い知らされる。

到着初日から三角公園では浮浪者が「殺されたいんか!?」と袋叩きにされているのを目撃し、仕事で入ったビルの解体現場は一歩間違えれば簡単に人が死ぬような労働環境だ。

新今宮駅/写真AC

何回読んでも面白いこのルポの魅力の一つは、個性的を通り過ぎてちょっと踏み越えてしまってる國友さんが出会う人たち。元ヤクザ、ギャンブル狂い、ヤク中、売人…町で会ったら目を合わせたくないヤバい人ばかりだけど、不思議と憎めないそんな人物ばかりなのだ。いや、そんないいもんじゃないか。

こんな風に書くと「それは西成という素材がいいからだ」「変人ばかりいるんだから、行ったもん勝ちだ」なんてことを思う人がいるかもしれない。

でもそうした考えは必ずしも正しくないと、この本を読んだ僕は思う。西成に行けばこんな面白い本が書けるなら、ノンフィクションライターが西成に殺到してヒット書が続出するようなことにならないのか(もちろん先行文献の中にも良書はある)。

この本がここまで読む人の興味や怖いもの見たさをガッチリ掴んで離さないのは、まさしく著者の力によるものに違いない。この本は、文章がとても読みやすいし、きわどい描写もとてもわかりやすい。もちろん、そういう基本的な書き手の能力が著者に備わっていることは疑いないけど、それ以上にこの『西成』を名著たらしめている理由のひとつは、著者自身の身の定まらなさなんじゃないのかなと思った。

國友さんは目の前で起きたことを、冷静に淡々と書き進めていく。不安は不安として、嫌なことは嫌なまま、普段話しているのと同じような書きぶりで筆を進めていく。話しているのは見たことないけど。何か考えを展開してみたり、目の前にいる不幸をかこつ人の一生に思いをめぐらせたりしてみても、大上段から社会を語るようなことはなく、あくまで自分の一部の言葉として思いを綴っているように見える。

そして、自分自身もよく悩むし、周りの環境に合わせて変化していく。書き手が自分が何者であるかという点に自身がないというのも不思議な話だ。でも、だからこそ目の前のことを一つ一つ自分自身のフィルターを通して受け止め、ためつすがめつして、必要があれば結論を出す。そんなことを繰り返しているうちに、意識的にか無意識的にか影響を受けていく。

第一章の「ドヤ街生活のはじまり」に始まり、飯場で働く第二章が終わる頃には、筆者の西成についての視点は、より広くなっている。第三章以降、飯場で知り合った“案内人”となる人物との交流やドヤでの仕事を通じて、さらに西成の奥深くまで足を踏み入れるようになっていく…。

元々の予定では1ヶ月の滞在のはずが、彼女が東京で待ってるというのに結果的に78日も滞在してしまった國友さん。本人のポーズとは裏腹に、知りたいことを納得するまで追いかけるその姿勢は、同時代のどんなライターとも渡り合えるんじゃないだろうか。

だから、この『西成』というルポは、現地の刺激的すぎる日常をつまびらかに綴った良書であると同時に、一人のフリーライターが短期間ながら人生をかけ、(本の中でも、より長いスパンでも)大きく羽ばたいていくそういうノンフィクションとしても読める気がする。とにかく、めちゃくちゃ面白いかから。

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