「大恋愛」のムロツヨシと戸田恵梨香はなぜ蒲田の晩杯屋に行くのか

注)この記事には、多少のネタバレと勝手な推測によるデタラメが含まれます。

TBSで放送されているドラマ「大恋愛」が面白いと聞いたのでTVerで見てきました。

結論から言うと面白い。戸田恵梨香がわけがわかんないけど、それが良い。そして蒲田の晩杯屋が1話だけでも3回も登場しました。なのでまたお酒からドラマを考えてみようと思います。

「大恋愛」こそ逃げ恥の後継?

今期のドラマの中では、ガッキー主演で脚本が野木亜紀子という逃げ恥コンビが、日本テレビに移籍した「獣になれない私たち」がやはり一番の注目だったと思います。作中で新垣結衣と田中圭がキスするだけでニュースになるんだから、すごいことです。

それに比べるとムロツヨシと戸田恵梨香が主人公というのは、いさかか地味な気もしませんが、向こうが逃げ恥をどれだけプッシュしようと「逃げるは恥だが役に立つ」の正当な後継はこちらだと言わんばかりに、「木更津キャッツアイ」「SPEC」「逃げ恥」といった作品を手がけたエース演出家の金子文紀氏を投入した「大恋愛」、期待感が高まります。

戸田恵梨香が演じる北澤尚という女性は、代官山にあるKITAレディースクリニックで働く女医。母の北澤薫(草刈民代)が開業したクリニックで働いている人物です。

この戸田恵梨香のキャラクターがすごくよくわかなくて素晴らしい。戸田恵梨香の目の演技がすごいんです。

エリート婚約者を演じるTOKIO松岡

この北澤尚にはTOKIOの松岡くん演じる婚約者がいて、その相手も医師。ワシントン中央医科大学アルツハイマー病トランスレーショナル研究室という仰々しい場所で働く精神科医で、数ヶ月前にお見合い・婚約をして井原先生が(松岡)日本に戻るまでの間は遠距離恋愛(っていうのか?)で離れて暮らしています。

北澤尚と井原先生はどうやら似た者通しらしく「恋愛経験ないわけじゃないけど、入れ込んだことはない」というタイプなんだとか。どちらも(最初の時点では尚も)結婚に対して合理的な考え方を持っていて、結婚・出産の適齢期を考えるとそろそろ結婚しておこうかいう感じ。こんな美男美女で人間もできてそうな二人、誰が見てもうまくいくだろうってカップルですごい羨ましい。

デートも美術館行って「この絵の女性、尚さんに似てますね」とか言ってて社会階層の高い人たちは振る舞いから何から洗練されてるなあと。もちろん井原先生は晩杯屋に行かないし、行ったこともないんじゃないでしょうか。

婚約した二人はお互いの血液検査のデータを渡して、することをして結婚・出産に向けて着実に進んでいますが、ここでひとつ言いたいのは見る側もおっさんになってくると大人のキスや濡れ場を見るのがしんどくて仕方がないこと!美男美女でも同じです。ただしんどいではあるけど、そこに嫌味がないのがこの二人。10秒キスしただけで話題になってしまい、予想外を含めて常にみんなの期待通りを求められてしまうガッキーには出せない存在感が戸田恵梨香にはあるわけです。

髪型のせいか森川葵に似ている戸田恵梨香。彼氏と別れてインスタを全部消したのでは、とか不人気で視聴率を持ってないとか週刊誌に散々好き勝手書かれても、そこはさすがに実力がある戸田恵梨香。わけのわからないキャラクターで見る側を作品の中にもぐいぐい引き込んでいきます。

ムロツヨシの小説家もいい

ムロツヨシが演じる間宮真司という男は、アート引越しセンターで働いていて、一言で言うとちょっと変わった人。それもフィクション的なちょっと変わった人って感じじゃなくて、どこにでもいそうなちょっと変わってて面白い感じのお兄ちゃん。

引っ越し終わった後になぜかその人の家で飲み物飲んでたり、居酒屋で店長とスタッフにデタラメなアテレコして笑わせたり。この居酒屋っていうのが晩杯屋なんですけど、それはまた後で。

1話でわかることですが、実はこの間宮真司は小説家でもあります。「砂にまみれたアンジェリカ」という作品で、112回の玲瓏文芸賞を史上最年少で受賞していて、戸田恵梨香演じる尚もこの本の大ファンっていう設定。世の中うまいことできてますね。こんな二人が出会ってしまうんだから。

それにしてもこの玲瓏文芸賞、112回っていうのはなかなかの伝統ある文学賞。1年に2回受賞者が出るとしても50年以上前から続いています。賞の名前や、間宮が最近は小説を書けていないことを考えるときっと直木賞ではなく芥川賞的な位置付けなんでしょう(追記:劇中で「芥川賞」というフレーズがあるので、文芸誌主催の文学賞っぽい)。

尚が朗読したり、諳んじたりして「砂にまみれたアンジェリカ」の一部は視聴者も知ることができます。それはこんな具合。

空に向かって突っ立ってる煙突みたいに、図太くまっすぐにこの男が好きだとアンジェリカは思った。

陳腐だと言うのは簡単。でも尚はこの箇所が好きだといい、「私みたいな普通の人間にはこういうピカレスクでエロチックな刺激が必要なんです」と説明しています。

こういう描写もあるようでした。

あいつはいつも約束を破る。そして私を平気で何時間も待たせる。それはあいつが自意識の塊である証拠だとアンジェリカは思った。自分を待っている女を想像することで、自分の存在価値を確認する貧しい男目とアンジェリカは腹の中で叫んだ。

うん。ここだけではなんとも言えませんが、ロマンチックな恋愛小説なんでしょうね。「なんでこんなに女の人の気持ちがわかるんだろう」って言われている通り、女性の共感を受けるだろうことは想像に難くありません。

なお「大恋愛」は時間軸が一本ではなく、あちこちに行ったり来たりする構成になっていますが、そのガイドとなるのが「このウェディングドレスを着て、一ヶ月後彼女は花嫁になるはずだった」といったムロツヨシのナレーション。全てを知る神の視点なんだろうという疑問は1話の最後で解決しますが、どうやらこの視点は間宮が後から二人の物語を振り返って作品として残しているようなんです。この演出が物語になんらかの終幕を感じさせずにおらず、胸が痛くなります。

蒲田は大田区飲みの基本

「大恋愛」は「僕を忘れる君と」というタイトルにもある通り、北澤尚という人物が若年性アルツハイマーという設定になっています。

1話でも、好物である「黒酢はちみつ」をなんども箱で注文してしまったり、患者さんに結婚祝いのケーキをもらっても送ってくれた人を思い出せなかったりする描写がありました。ちなみに僕は最初「好きな人を忘れちゃうドラマ」だと聞いて、ムロツヨシが忘れていくんだと思ってました。

二人の出会いは、客と引っ越し屋という関係からスタートします。アートで働く間宮は、引っ越しの時に尚が自分の小説が大好きなことを知って、その時はそれで終わるんですが、後日ダンボールを回収に行った際に上階から水漏れして困っている尚を助けたことで、食事に行くことに。それが蒲田西口の晩杯屋だったってことなんですね。晩杯屋の話がしたいのに前置きがすごく長くなった。

このカットが作品でも出てきますが、晩杯屋は蒲田に実在します。なんで晩杯屋だったのかを考えると、間宮の働くアートの営業所はおそらく蒲田にあって、おそらく家も久が原あたりで呑川沿いに建つアパートです。

一度、二人で朝まで神社で語り明かすシーンがあるんですけど、あれは多摩川の浅間神社。シン・ゴジラでゴジラを東京に入れないように厳重な攻撃態勢を敷くシーンがありますが、あの作戦の司令部があった神社ですね。多摩川は蒲田と多摩川線で結ばれているので、やはり間宮はこの辺りで生活していることがわかります。僕も昔田園調布に住んでいて、毎年の初詣はここでした。

尚の家は代官山にあって、作業を終えて帰るのトラックの窓から田町〜品川間の国道15号の光景が見えることから都心のいいところにあることが伺えて、作中では蒲田との関わりは薄そうです。

水漏れのピンチを助けてもらった後、尚は「これで何か召し上がってください」と心ばかりのお礼を渡そうとします。間宮は「なんすかこれ」って感じで受け取ろうとせず(お金には困ってないのか)にいると、「じゃあその辺で何かご馳走させてください」って営業所に戻すトラックに便乗。描かれてませんが、じゃあどこかに行こうって話になって晩杯屋に決めたんでしょう。

晩杯屋は、多くの人が安い立ち飲みチェーンってイメージを持ってると思いますが、品川区や大田区に住んでると少し見方が変わります。晩杯屋は、元システムエンジニアで飲食未経験だったオーナーが赤羽の名店「いこい」で修行した後にオープンしたお店。

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今は大きくなってどこにでもあるチェーンのイメージがありますが、武蔵小山や大井町の店、それからこの蒲田の店とかに行くと創業当時のチャレンジャースピリットが感じられますよ。実際、地元の飲んべえやサラリーマンにすごく愛されていて人気があります。

まあ、そういうこともあり蒲田に長く住む間宮が尚を連れてきたってことなんでしょうね。ちなみにこの晩杯屋、外側は実在する店ですが中はスタジオのセット。確かにこのグループにしては珍しく椅子席もありますが、実際の店内はこんな感じ(立ち飲みゾーン)。中身は別の店にするなら別に晩杯屋じゃなくていいだろうに、と思いそうですが、晩杯屋じゃなければならなかった理由があるんでしょう。

訳がわからない戸田恵梨香の芝居はすごい

その晩杯屋でなければならなかった理由、それが何かと言えば尚が気持ちが揺れる婚約者と間宮という二人の記号的な意味合いなんじゃないかなと。片方はワシントンの医大でポストを持つ超エリート、片や書けなくなった小説化で引っ越し屋で働く一般人(一般人ではないか)。

ロミオとジュリエットは言わずもがな身分違いの恋愛ってのはドラマの鉄板ネタ、多くの人の大好物ですが、でも「大恋愛」は尚がアルツハイマーで忘れていくってことを別にしても、そう単純に見えないんです。それはなぜか。

営業所に戻るトラックの中で間宮が「こうやってよく男を誘うんですか」って聞くと「まさか、私婚約してるんですよ」と答える尚ですが、婚約どうこうは別にして30半ばの女性が助けられたお礼とは言え、強引に食事に連れて行くというのはなかなか突飛な行動です。この時は相手がまだ憧れの小説家だって知らないわけですから。

晩杯屋で楽しく日本酒を飲んだ後、婚約者からLINEが来ても未読スルーしちゃうところもあり、自分の思うがままに行動したいマイペースなところがあるんでしょう。でも最初に「恋愛経験ないわけじゃないけど、入れ込んだことはない」って言ってたし、とはいえ、その性格だったら絶対ジェットコースターのようなアップダウンの激しい恋愛何度も経験してるだろう、とか訳がわかりません。

そう、この戸田恵梨香演じる北澤尚は訳がわからないんです。

でも考えてみたら普段我々が毎日会ったり一緒に過ごしたりしてる人だって、だいたい訳わからないですよね。この間インタビューした映画監督が、「監督だって作品のことやキャラクターのことが全部分かるわけじゃない。わかったらつまらない」って言ってました。

この間読んだ『不道徳お母さん』って本に娘の国語の授業で「ごんぎつね」が使われる話があったんですが、その内容がだんご?の置く向きできつねの気持ちを考えるとかで、「そんなに内面ばかり想像させる授業に意味があるのか」みたいな話だったんですけど、これはなかなか考えさせられるもので、我々はいつでも合理的な選択を取るホモエコノミカスでなければ、フロイトの精神分析で把握できるような分かりやすい人間でもありません。

尚は本当は結婚に心のどこかで疑問を持っており、婚約者の正反対に位置する男に惹かれてしまうと図式的に考えることはできますけど、でもなんかよくわかんないけどそういうことになってる、って方がよっぽど見てる側も乗り入れやすいですよね。

そしてそういう訳のわからない女の人を見事に演じきってるのが戸田恵梨香という女優で、目にも表情にも引き出しが多くて、すごくイキイキしてるなと。

間宮が憧れの小説家と知った時のテンション爆上がりするシーンとか、浅間神社で話し込んで「私タイプなんだ?」とかはっきり言うシーンとか純粋で悪い女だなあと思うけど、たまらなく可愛く見えますよ。

すごいのは尚を演じるときは戸田恵梨香がどこにもおらず、そこは何をしてもガッキーであり続ける新垣結衣とは大きな違い。どちらがどうというわけではないですが。晩杯屋にいる尚は戸田恵梨香ではなく、どこからどう見ても晩杯屋にいる尚でしかあり得ない。

彼氏と別れてインスタ消したっていい、性格悪い女優と週刊誌に書かれてもいい(そもそも本当なのか)、こんなに素晴らしい演技ができるのなら。そんな勇気をくれた戸田恵梨香に感謝しつつ、今日も「大恋愛」の放送を首を長くして待っています。

GRANNY SMITHのアップルパイがおいしそうだなあ。

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